保育園入園

子供を保育園に入園させるべきかどうかについては相当悩んだ。子供の言語発達を考えると、保育園ではなく、手話が飛び交う環境にいた方が良いのではないか、というのが大きな理由の1つだ。補聴器の効果が芳しくなかったこともあり、日本語が飛び交う環境では、子供の言語発達(日本語)を期待することが難しい。

共働き世帯の場合、子供を長時間預かってもらわないと仕事を継続することができない。だから、基本的には子供を保育園に預ける必要がある。

子供を保育園に預けることができれば、子供は保育園の中でたくさんの経験ができる。先生や友達とのコミュニケーションや遊びを通して、たくさんのことを学ぶことができる。身の回りのことを1人でできるようにもなる。得られることがたくさんある。

でも、先天性難聴児の場合は、周りの音や声を聞くことが難しいので、保育園で周りの友達と同じくらいのことを学べるのか不安がある。

そして、何よりも問題なのが、言語発達である。

家庭内で聴者が日本語でたくさん話をしても、保育園で先生や友達が日本語でたくさん話をしても、この問題はまるで解決しない。何しろ、日本語を聞くことが難しいのだから。

では、どうすべきか。手話をメイン又は併用、ということであればろう学校(ろう学校によって方針がかなり異なるが)になるのだろうか?

ろう学校を選択すると夫婦の一方は会社を辞めざるを得ない。子供がそういう状態なのであれば一方が会社を辞めれば良いのでは? という意見が出てくるかもしれない。しかし、事はそう簡単ではない。ろう学校に行けば言語発達の問題がなくなる、という訳ではないからだ。

ここでいう言語は母語を指すが、一般的に母語とは自然に体得できる言語を言う。先天性難聴児にとって母語とは何か? となると、自然に体得できるのは日本手話だけと考えることもできる(注:あくまで1つの考え方として)。でも、日本手話で学べるろう学校は、知る限り日本に1つしかない。

日本語対応手話ももちろん手話であるし、コミュニケーション手段としての重要性は言うまでもない。でも、子供の言語発達、という観点で捉えると、日本語対応手話と日本手話の違いは意識せざるを得ない。というか、すべきだと思っている。

僕が悩んでいるのは、いうまでもなく、コミュニケーション手段としての手話ではなく、子供の言語発達としての手話である。

どうすれば日本手話による言語発達を促すことができるのか、という問題に加えて、日本語をどうするか、という問題もある。日本で生活する以上、日本語の読み書きは必須である。

今のところ、ここのろう学校に行けば言語の問題はまるっと解決します、といった学校はほとんどないのではないかと思っている。なぜなら、子供の聴力、耳の状態、親の考え方等々は、人それぞれなので、どういう教育が望ましいかは一人一人によって見事に異なる。そして、その方針がぴったりと特定のろう学校の教育方針にハマるとも限らない。

少なくとも、僕は、この領域はこの学校が良いけど、別の領域はあそこの学校が良い、といった感じで、ぴったりハマると思うろう学校には出会えていない。

もちろん、言語発達という問題以外にも、働くことで得られる多くのものを失って良いのか、という問題もある。献身性を追求するためには全てを捨てるべき、という考え方が正しいとは必ずしも思わない。

だから、会社を辞めてろう学校に行けば良い、という単純な結論になるとは思えない。

…と、色々と悩みはあるが、精一杯考えた末、我が家は保育園入園という選択肢を選んだ。

そして、保育園を選択したからには、子供の言語発達、というものを真剣に考え、なんらかの対応をとる必要がある。

先天性難聴児の言語発達は自然に解決するものではないし、子供の脳の発達を考えると悠長にはしていられない。