言葉の多様性と新年の目標

※ 東京在住 DENKAさんより寄稿いただきました。

 2020年、明けましておめでとうございます。

 テレビでは「令和になって初めて迎える正月」というフレーズをよく耳にします。でも「2020年」というのも、結構レアな並びですよね。私事ですが、60歳の還暦で迎えた2020年、節目の年にしたいと思います。

 新しい元号「令和」が発表された昨年4月1日、すぐに「令和」の日本手話の表現が全国手話研修センター・日本手話研究所から発表されました。ところが、この手話表現をあまり目にしないね、という話を最近、何回か耳にしました。上から決められた「言葉=手話」など使いたくない、ということなのか――。そもそも元号を日常会話で使わないからなのか。

 元号に対する考えは、それぞれの思想信条が絡むことにもなるので深入りしませんが、私はなるべく元号は使いたくない方です。金融機関などで元号表記を強制されると「カチン」と来ます。それでも元号は無くなってほしくないと思います。

元号が替わると、元号で言われた生年月日での年齢計算が面倒になります。その一方、「昭和生まれ」「平成生まれ」で世代の違いがすぐ分かるのも事実です。30数年前、私が社会人になったころは「戦前派」「戦中派」「戦後派」という区分が幅を利かせていました。「幼少期を第二次世界大戦中に過ごした」戦中派などは、人によって使う意味がバラバラで紛らわしかったものです。いずれにしろ、戦後派が圧倒的多数を占める現在、この区分けの賞味期限は切れました。とはいえ戦争はもう起こってほしくないし、生まれ年を昭和、平成、令和で分ければ世代がはっきりしますよね。

 新しいモノ、概念、現象が出てきたとき、それを言葉でどう表現するかという問題は、どんな言語にも生じます。明治維新のとき、外国から大量に入ってきたモノや概念を日本語で表現するため、カタカナ表記の外来語が大活躍しました。でも「輸入」しているだけではありません。最近は、世界で通用する日本語が数多くあります。日本食・日本文化の象徴である「sushi(寿司)」「kimono(着物)」。世界中にファンが増えている「manga(漫画)」「anime(アニメ)」「karaoke(カラオケ)」。不名誉なことですが、最近では[karoushi(過労死)]も世界で通用するようになった、と話題になりました。

 手話でも、新しい表現を生み出す必要がいくらでもあったし、これからも出てくるでしょう。手話の知識はまだまだなので、適切な例を挙げられる自信はないですが、ツイッターやフェイスブックなどはこの10年で社会に現れ、そのとき手話表現も考えられたのでしょうね。アメリカ手話を知らないのですが、日本手話で指文字の「ツ」をベースにしたツイッターは、小鳥がさえずっている様子がぴったりで、定着しています。一方フェイスブックは、私の見る限り、いろんな手話表現が入り乱れている状況でしょうか。

 最初に紹介した「令和」の手話表現。掌を上に向けて、花が咲くように開きながら前に出す。とても素敵ですが、明治、大正、昭和までは手の位置が顔の周辺でした。平成はバストの高さになり、令和ではさらに下がった印象で、個人的には少し違和感がありました。

そもそも私は天の邪鬼なので、何で上が決めたものを使わなきゃいけないんだ、と思ってしまいそうです。元号使用を強制されることに反発するのと同じ心情です。こうした全く新しい言葉は、だれかがエイヤーと決めないとならないでしょう。でも一方で、「統治者は時を支配する」という言葉がある通り、政府が元号を決めるのは、「この国を統治しているのは私たちですよ」と見せつける意味があるのも確かです。

 話がそれましたが、令和の手話が普及しない理由は、日常生活で元号を使う必要があまりないことの方が大きいように思います。でも、令和生まれが社会人になるころには、「令和世代」などと使われるようになるかもしれません。

 言葉はそれを使う人たちの生活、文化、社会を反映するものです。だから社会の変化に応じて使われなくなる言葉もあれば、新しく生まれる言葉もあります。そんな社会の変化に柔軟に対応するためには、いろんな言葉、多様な言語を持っていた方が良いのではないでしょうか。それは社会にとっても、個人にとっても同じです。

西暦や元号も、どちらかだけ使え、と強制するのではなく、好きな時に好きな方を使った方が良いに決まっています。世界にはいろんな暦があります。中国では春節=旧正月の方が盛大に祝われる、と知っておいた方が良いでしょう。

 言語も社会も、そして人も、多様性のある方が相互理解が進むはずです。

 「うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、多様性は無知を減らす」

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がベストセラーになっているプレイディみかこさんが、息子さんに「なぜ多様性が大事なのか」と尋ねられたときの返答だそうです。

 少しでも相手への共感力を高めたい、相手の立場に立って行動できる人間になりたい。節目の年を迎えた私の目標です。だから、もっともっと手話を勉強したいと思います。