言語聴覚士について

新生児聴覚スクリーニング後の精密検査の結果を聞きに病院に行ったとき、「STさん」という聞き慣れない言葉を聞いたのを覚えている。ただ、当時はあまりのショックで医者の話の大半が頭に入っておらず、「STさん」という言葉の響きだけがなんとなく頭に残っている程度だった。

「STさん」なる人に最初に会ったのは、補聴器装用のために必要な検査をしているときだ。「ST」とは、Speech-Language-Hearing-Therapistの略で、言語聴覚士という専門家を指す。「ST」という略語を聞く機会が多いので、こちらの呼び方が浸透しているのかもしれない。

言語聴覚士は、1999年に国家資格として誕生した比較的新しい専門職で、ことばや聞こえ、食物を口から食べることに障害を持つ人達の機能回復や発達促進の支援を行うプロフェッショナルだ。言語聴覚士の中でも専門領域が分化しているようで、聴覚分野における言語聴覚士の数は全体の13%程度のようだ(参考:一般社団法人日本言語聴覚士協会のサイト上のデータを基に算出)。

新生児聴覚スクリーニングの普及による乳幼児に対する聴覚検査の増加や、それに伴う早期療育が必要となる乳幼児の増加、人工内耳装用者の増加や、高齢化社会における後天的な難聴者の増加など、聴覚分野における言語聴覚士のニーズが拡大している一方で、言語聴覚士の数が不足しているという。

先天性の難聴については、医療、療育、教育、言語、福祉等、関係する専門領域が多岐にわたるので、僕のような素人には全体像を理解するのがとても難しいが、少なくとも僕が実際に話をした言語聴覚士の中には、専門的な情報を噛み砕いて、かつ横断的に説明してくれる人達もいた。僕らにとってとても頼りになる専門家だと思う。

新生児聴覚スクリーニングでリファーとなった後、不安をかかえた親が言語聴覚士に気軽に相談できるような環境が整うと、親の初期の心理的負担は相当程度緩和されると思うのだが、現実にはまだそのような環境になっていない。