インテグレーションとインクルージョン

難聴の子供を通常の学級に通わせることをインテグレーションという言葉で表現する人が多い。人によってはインテグレーションではなくインクルージョンという言葉を使っている。この2つの言葉は何が違うのだろう? なぜこの言葉が使われているのだろう? よくわからない。

気になっていた当時、ネットで調べてみたところ、どちらも障害のある子供が通常の学級に通うことであり、インクルージョンはインテグレーションよりも最近の議論を反映させた言葉である、といった趣旨の回答が出てきた。わかったような、わからないような…でも、当時は特に気にもせず、そういうものとして頭に入れていた。

だが、子供が成長するにつれ、改めて気になってきた。インテグレーションって何? インクルージョンって何? そして、それらの違いは?

英語の一般的な意味でいうと、インテグレーションは「統合」、インクルージョンは「包括」となる。だから、教育の場面で使うとなると、インテグレーションは統合教育、インクルーシブだと包括教育、みんなが一緒に教育を受ける、くらいのイメージだろうか。

調べてみると、これらの言葉は障害児教育の変遷に関係しているようだ。つまり、日本の障害児教育は、特殊教育→統合教育→インクルーシブ教育(今ここ)の流れを辿っており、この流れに沿って、統合教育の時代に障害児が通常の学級に通うことはインテグレーションと言われ、現在、インクルーシブ教育の時代に障害児が通常の学級に通うことはインクルージョンと言われているようだ。

だから、障害児が通常の学級に通う、という意味において2つの言葉に違いはなく、それらの言葉が出てきた社会的背景による違い、ということになる。

特殊教育とは、障害のある子供はろう学校、盲学校、養護学校で教育を受け、そうでない子供は通常の学級で教育を受けるという教育方針を指す。ろう学校、盲学校の義務制が実施されたのが小学校と中学校とで異なるが1950年前後、養護学校の義務制が実施されたのが1979年なので、1979年以降の障害児教育が特殊学校時代となるようだ。これは、障害のある子供と障害のない子供を分離するものなので、批判的な意味も込めて分離教育とも言われていたようだ。

統合教育とは初期の特別支援教育を指す。これは2007年の学校教育法改正以降の教育方針であり、この改正では、ろう学校、盲学校、養護学校を特別支援学校として再構成するなど大きな制度変更があった。このきっかけとなるのが、世界的な考え方の変化である。つまり、障害のある子供とない子供を分離するのではなく、ともに学ぶべきだ、という考え方が世界的に強まってきて、それに対応する形で日本でも制度が変わったようだ。分離されていたものを、1つにまとめる流れなので、統合教育と言われている。

その後、インクルーシブ教育の流れが主流になる。統合教育では、障害のある子供とない子供という2つの区分があって、それらを統合する、という考え方だった。しかし、そもそも、障害の有無で2分すること自体がおかしい、障害は有無ではなく、程度の問題である。子供は1人1人違い、障害もその違いの1つにすぎないのだから、子供達それぞれのニーズにあった教育をすべき、という考え方に変わってくる。日本では、2012年に中央教育審議会により「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」という報告が出ており、インクルーシブ教育を推進することが明示されている。

単なるカタカタ言葉のニュアンスの違いだと思っていたが、意外と深かった。