赤ちゃんの難聴とは

「パパ!お酒飲んでるの?」

子供がある日突然、「お酒」という言葉を使い出した。子供と話しているとよくあることだが、いつ覚えたんだ?と思うような言葉を突然使うようになる。「お酒」について言えば、僕が、よく家でお酒を飲んでいるので、その時々の夫婦の会話などから自然と覚えたのだろう。「お酒」に限らず、親が良く使う言葉を、良くも悪くも子供はすごいスピードで覚えていく。

上の例は、多くの子供を持つ親が実際に体験しているようなエピソードだと思うが、難聴児、特に重い先天性難聴児の場合、このようにはならない。

赤ちゃんは、生まれたばかりの頃は、物に名前があることを知らない。つまり、物事を言葉で切り取ることができない。目で机やコップが見えてはいても、これが机という名前の付いた物で、これがコップという名前が付いた物で、といった認識はできない。このような状態で、日々、目でたくさんの物を見て、耳からたくさんの日本語のシャワーを浴びている。

ある時、赤ちゃんは、目に見えるコップという物と耳から聞こえる「コップ」という日本語が同じものであることに気付く。これは、赤ちゃんの脳内で、目に見えるコップという物と耳から聞こえる「コップ」という日本語が紐づく瞬間であり、言語獲得という。この過程により、物に名前が付いていることを認識した赤ちゃんは、驚くほどのスピードで、目に見える物と耳から聞こえる日本語のマッチング作業を繰り返し、脳内の言語の辞書を作っていく。これが、ざっくりではあるが赤ちゃんが言語を覚えるメカニズムだと言われている。

では、重い先天性難聴児の場合はどうだろうか。目でたくさんの物を見ても、耳から日本語が入ってこないので、上のメカニズムが働かない。つまり、脳内で物と日本語のマッチング作業ができないので、自然にしておくと、物に名前があることに気付かず、言語を覚えることができない。言語を覚えることができなければ、コミュニケーションもとれないし、考えることもできない。難聴の程度によって差はあるが、概ねこのようなことが、先天性難聴児のかかえる大きな問題点である。