「薬指」じゃないの?

※ 新潟在住 元新聞記者さんより寄稿いただきました。

手話の勉強を始めて2年半がたちます。市が主催する入門講座、基礎講座が終わり(といっても主催者の温情に拠るところが大きいのだが)、今は地域の手話サークルを中心に、自宅では検定のためのテキスト、DVDなどを使って少しずつ勉強しています。

NHKテレビも貴重な学習ツールになっています。「手話ニュース」や「こども手話」などの番組がありますが、なかでも、一番重宝しているのが「みんなの手話」です。ろう者の講師、アシスタントが中心となって、場面に応じた手話表現を教えてくれるが魅力ですし、手話独特のCL表現についても時間を割いています。元の受講生仲間のなかには、V6の三宅健目当てという人もいるようですが…

先日、「みんなの手話」の再放送を見ていてビックリしました。思わず「アレ、間違いだろう!」と声を上げてしまいました。見間違いかな、と思ってテキストを確認すると、説明文には、「右手の中指を左手の手の平に当ててこする」と、はっきり書いてありました。「薬指じゃないの?」と、頭をひねっていると、一緒に見ていた妻が「まさかNHKがミスすることはないと思うけど、初回の放送の時には気づかなかったんでしょ。上達したってことよ。」と、変なほめられ方をされました。

そう、問題?の手話は「薬」という表現です。これまで、教えてもらったのは、「右手の薬指を左手の手の平に置き、円を描くようにこする」というものです。私が使っている2種類の辞書も同じような表現で、いずれも「薬指」と表記しています。どう考えても、「薬」の手話表見の語源は「薬指」。なのに「中指」とは合点がいきません。

そこで、2、3日後の飲み会で、居合わせたろう者の方4、5人に疑問をぶつけました。すると、「中指なんてありえない」「角度によって薬指が中指に見えたのでは」と、一蹴されました。同席していた基礎講座のろう者の講師の方にも聞きましたが、あっさりと否定されました。

そこで、念のため、ろう学校の先生でサークルの講師(健聴者)の方に聞いたうえで、NHKに手紙で疑問をぶつけることにしました。私としては、講師の方もNHKミス説に賛同してくれるものと、思っていましたが、意外な返事でした。「中指で表現する人を見たことありますよ。」多くはないが、稀に中指を使う人がいるようです。

ということで、一応は決着しましたが、正直、今でも違和感を覚えています。

「なんで中指なんだろう?」。そこで、私なりにたどり着いた答えが、「中指の方が表現しやすい」ということです。指の構造上の故か、慣れの故か、私には中指の方がスムーズに動くように思います。そういうことから、動きが楽な「中指」を使う人が出てきたのではないか。皆さんはどう思いますか?

サークルの講師には、「1つの日本語に対応する手話表現は1つとは限らない」と、よく言われます。「名前」という表現も複数あるようです。「水」という表現は3つも4つもあると言われています。多くは地域や時代、そこに年代の違いなどに拠るものです。とりわけ若いろう者の手話は、日々変化しているそうです。

先日、ろう学校の先生に、最近、ろう学校の子どもたちが使っている手話を教えてもらいました。1つだけ挙げると、左手の指文字の「や」の手の甲の上に、同じく指文字「や」の右手をのせる表現です。意味は「ヤバイよ」だそうです。

1つの日本語に対応する手話を覚えるのが精一杯の当方にとって、4つどころか2つでも、しょせん無理な注文?「ヤバイよ」「ヤバイよ」と言いたくもなります…